捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 彼から再び連絡がきたのは、宣言した通り十五分ほど経った頃だった。

 近くまで来ていると知っていて逃げるわけにもいかず、私は観念してラーメン屋で彼と待ち合わせた。佐渡谷さんは車を駐車場に入れ、颯爽と降りてくる。

「ごめん。待たせて」

 急いで来たって、彼は非の打ちどころがないくらい完璧だ。ピシッとスーツを着こなして、髪型ひとつ乱れることがないみたい。

 だからこそ、ラーメン屋を差別するわけじゃないけれど、こういう庶民的な印象の店を利用するのは違和感を抱く。

「あの、本当にここへ入るんですか?」
「そのつもりだけど?」

 さらりと即答され、私は目を白黒させた。

 わざわざ私を追うようにここまで来て、そんなに重要な用件でもあるの?

 私なんて、調理師免許は持っていても特別な知識があるわけじゃない。
 佐渡谷さんの考えていることがまったくわからず、困惑する。

「街から離れたこの場所だとすごく目立ちますよ。車も佐渡谷さんも」

 私は一歩前を歩きつつ、わざと彼との距離を自覚するため、よそよそしい態度を取って線引きをした。

 彼に悪印象を与えたとしても、苦しい思いをするのは今だけ。
 今後、かかわりもしなければ何の問題もない。

 そう考えて発したのに、佐渡谷さんはまったく動じず飄々として答える。

「それはよかった。きみにすぐ見つけてもらえる」

 予想もしない回答に絶句する。もうなにがなんだかわからなくて、ストレートに言ってしまった。

「あの! 無理して私に合わせなくても」
「無理? 俺が?」

 佐渡谷さんの反応からするに、とぼけているわけではないみたい。だから私は、素直な気持ちをそのまま口にした。

「だ、だって……正直言って、私と佐渡谷さんは全然違う世界の人じゃないですか。生活も、きっと育ってきた環境だって」

 彼について詳しくは知らない。しかし、肩書きを知るだけで十分だ。

 すると、佐渡谷さんは初めて不服な感情を露わにした。
 僅かに眉根を寄せ、真剣な顔で反論する。
< 45 / 144 >

この作品をシェア

pagetop