捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「きみは、俺が生まれたときから今日まで、スポーツカーで有名店まで走ってフルコースを食べてるとでも思ってるの? 俺だって電車を利用したこともあるし、ラーメンを食べることだってある」

 さすがに怒らせてしまったかも……と私は肩を竦め、俯いた。

 佐渡谷さんは私の目の前で足を止める。

「これまで別々の世界にいたかもしれないけど、もう俺たちは出逢ったんだから同じ世界にいる」

 自然と視線が上がった。
 佐渡谷さんは、宝石のように綺麗な瞳でまっすぐ見つめてくる。

 彼の眼は本当に美しくて、時を忘れそうになる。

 私が意識を奪われていると、佐渡谷さんは相好を崩した。

「お腹が空いたな。宇川さんもだろ? 俺が待たせたし。中に入ろう」

 佐渡谷さんは私を追い抜き、低めの暖簾を頭を屈めて入っていく。私もそのあとを追って店内に足を踏み入れた。
 すぐにカウンター席があり、佐渡谷さんが端の席に腰を下ろしたので、おずおずと隣に座った。

「注文は決まってる?」
「え? あ、塩で」
「すみません。塩ラーメンと醤油ラーメンをお願いします」

 有名フレンチレストランでも小さなラーメン屋でも、佐渡谷さんは変わらずスマートに行動する。

 下町風のラーメン店は、お世辞にもおしゃれとか綺麗さはない。
 それにもかかわらず、彼は平然としてカウンター席で頬杖をついているのだから、さっき言っていた通り、ラーメンを食べに来ることもあるのだろう。

 なにを話していいかわからず、会話を探しているうちにどんぶりがふたつカウンターに置かれた。食欲をそそる匂いとともに立ち上る湯気が、さらに空腹感を煽る。

 ラーメンは時間との勝負。一分一秒と過ぎるにつれ、麺がのびていっちゃう。

 せっかく作ってもらったラーメンを少しでも美味しくいただくため、私はひとまず佐渡谷さんとの会話をあとにして、手首につけていたゴムで髪を括った。
< 46 / 144 >

この作品をシェア

pagetop