【短】エリュシオン
「えー?なんで、そこでちゃん付けするかなぁー?」

「む、無理だよ。そんなに、急には。今の僕にはこれが精一杯…」

「もー…しょうがない。それじゃ今は慧くんのペースでいいよ。私も待つから」


そう言って、肩をぽんと叩くと、熟れたトマトのように染まった耳が目に入って、…思わずむんずと掴んでいた。


「えっ?えっ?今度は何!?」

「なんでもなーい」

「えー?!美緒さんってば!」


「あははっ。ほんと、なんでもないよー。ただ、触ってみたかっただけー」

「っ?!」


触れたい、そう思ったのは本当だった。
こんな風に、自分から何かに執着したいと思ったのは、初めてのことで、心が痛い。


ごめんね…。


そうやって、彼に心の中で呟きながら、私は彼に対して微笑んだ。


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