政略妻は冷徹ドクターの溺愛に囚われる~不協和結婚~
「……萎えた。泣かれては、興醒めだ」


素っ気なく言い捨て、再びベッドを軋ませた。
肌で感じていた圧迫感が和らぎ、那智は顔からそっと両手を離した。


彼はベッドから降りて、床に落ちたバスローブを拾い、背中に羽織ったところだった。
腰でローブの紐を締め、しどけない姿の那智を肩越しに一瞥する。
無言の溜め息をついてスッと背を屈め、無造作に散らばったシャツを摘まみ上げると、彼女の身体にバサッと乱暴に放った。


「明日は、やめない。俺を受け入れる覚悟をしておけ」


今日、ほんの数時間前、新婚生活を始めた『夫』に向けられる、冷たい一言――。


「っ……蓮見、先生っ……」


顔を覆ったシャツをずらし、寝室のドアに向かう背中を目で追う。


「お前も、もう『蓮見』だろう。いつまで夫を名字で、先生と呼ぶつもりだ」


彼はそれだけ言い捨てると、一度も振り返らずに寝室を出て、後ろ手でドアを閉めた。
一人ベッドに残され、那智はホッと胸を撫で下ろした。
最後の一線を越えずに、解放してもらえた……。


「っ……ふ……」


強く安堵すると共に、身体が小刻みに震え出す。
シャツで身を包み、小さく小さく縮こまった。
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