契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「晴香、お願い」

 甘い甘い囁きに、晴香は背骨が溶けてしまいそうな気分になる。
 
「たか…、ダメ」

 たまらずに孝也の胸に両手をついて、なんとか逃れようとするけれど、大きな身体はびくともしないで晴香を包む。
 孝也が追い討ちをかけるようにもう一度囁いた。

「どうしても、ダメ?」

「わ、わかった! わかったから…!」

 晴香が声をあげて、もう一度力いっぱい彼を押すと、今度はあっさり解放された。

「やった」

 まだ熱いままの耳に手を当てて、晴香は頬を膨らませて孝也を睨む。視線の先には、してやったりというような孝也の笑顔があった。

「約束だよ」

「こここここんな…!」

 静かな部屋に少し大きな晴香の声が響き渡る。
 孝也がわずかに首を傾げた。

「こんな頼み方しなくても…!」

 だがすっかり動揺してしまった晴香を他所にどこ吹く風の孝也はヒョイと肩を竦めるだけだった。

「だって晴香、俺と健太郎の言うことなんてほとんどきいてくれないじゃん。だからどうしてもの時はちょっと強引にお願いすることにしたんだ。俺たちもう夫婦だし」

 たしかに晴香は、健太郎と孝也の意見をあまり重視しない傾向にあった。
 でもそれは小さい頃の話で、その頃はわがままばかりだったふたりの言うことをいちいち聞いていたらきりがなかったから。
 孝也がやや大げさにため息をついた。

「それに晴香、やっぱり男に慣れてないみたいだし…。一緒に住みはじめてから、俺が近づくたびにびくびくしてさ。どんどん慣らしていかないと、俺たちの子どもは本当にコウノトリにお願いすることになると思って」

「そ…! そんなことにならないもん!」
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