契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香は真っ赤になって声をあげた。 
 晴香が孝也にびくびくしていたのは、男性に慣れていないからではなく、孝也に触れられた時の自らの反応に戸惑っていたから。
 でもまさかそれを口にするわけにもいかず何も言えなくなった晴香を孝也が少し呆れたように見ている。
 『そんなことにはならない』と言った晴香を、全然信用していないのがありありとわかる表情だった。
 晴香は小さく咳払いをして、一旦心を落ち着けてから、口を開いた。

「ま、前にも言ったけど、私にだって経験はあるんだから、このくらいのスキンシップは、べつになんてことありません。ただ孝也のは、いきなりすぎてびっくりするだけ。い、今までの彼氏の中にそんなことする人はいなかったから」

 今までの彼氏なんて一人しかいないのだが、あたかもたくさんいるかのように言って、晴香はすましてみせる。
 晴香の強がりなどすぐに見破られるだろうと思ったけれど、なるべく経験豊富そうにみせて、晴香が孝也に友達以上の感情を抱かないことをアピールしたかった。
 そんな晴香の言動をどんな風に捉えたのか、孝也がクイッと眉を上げた。

「経験ねぇ…」

「ほ、本当なんだから!」

 そう言う晴香をジッと見つめて、孝也が一歩晴香に近寄る。
 また、すぐ近くに孝也を感じて晴香の身体がぴくりと震えた。
 その晴香の反応に、孝也はふっと笑みをもらす。そしてゆっくりと晴香のアゴに手を添えた。

「あ…」

 晴香の口から声が漏れる。
 アゴの手にぐいっと上を向かせられると、至近距離に剣呑な色を湛えた孝也の瞳があった。

「た、孝也…?」

 孝也があの低い声で囁いた。

「じゃあシャワーを浴びたら、その経験抱負なところを見せてくれる? 俺は、ベッドで待ってるよ」
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