契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也の手がゆっくりと、晴香のパジャマの上を這い回り始めた。

「んっ…孝也、孝也、違うの!」

 たまらずに声をあげると、ようやく孝也が手を止めた。そして射抜くような眼差しはそのままに、優しく晴香に問いかけた。

「違う? …それはつまり?」

 晴香はこくんと喉を鳴らして、本当のことを口にする。

「彼氏は、ひ、ひとりしかいなかったの。だから孝也の言う通り、たくさん経験があるわけじゃなくて、たぶん慣れてはない…です」

 孝也が、おもしろくなさそうに鼻を鳴らした。

「ひとりは、あるんだ」

「あ、あたりまえじゃない!」

 晴香はもう一度声をあげる。だが孝也にじろりと睨まれて、慌てて口を噤んだ。

「まぁそれは…そうか」

 孝也が小さくため息をついて、もう一度晴香のアゴを捕らえる。近づく彼の唇を晴香は慌てて静止した。

「孝也、待って…」

「ん? なに、晴香」

 息がかかるほど近くまできて、孝也は一旦ぴたりと止まる。晴香は小さく首を振った。

「だ、だって…、もう本当のことを言ったのに…」

 くだらない見栄の代償はもう十分に払ったはずだ。だが孝也はニヤリと笑って、晴香を許してはくれなかった。
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