契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「ほとんどは家で過ごすと思うけど、一泊だけ近場の海へ行こうかと思ってるんだ。知り合いから紹介されたリゾートホテルに空きが出たらしくて」

「それって、ご家族とですかぁ」

 すかさず七瀬が斬り込んだ。

「え? いや…」

 唐突に話に入ってきた七瀬に孝也が少し驚いて言葉に詰まる。梨乃が慌てて七瀬の袖を引くけれど彼女の口は止まらなかった。

「副社長、社長の娘さんとの婚約の話はなくなったって聞きました。そのリゾートにはどなたと行かれるんですか?」

 直球すぎる七瀬の質問、だがよく見ると田所も興味津々といった様子で孝也の答えを待っている。
 今回の取引で孝也と関わることが多くなった田所は彼がこんなことで気を悪くしたりしない気さくな人物だということに気がついたのだろう。案外ゴシップ好きなところがある田所も本当のところ話を聞きたいと思っているに違いなかった。
 孝也がコーヒーを置いて、

「その話ね」

と言って笑った。

「まず、婚約の話はなくなったのではなくもともとなかったんだ。相手もあることだから、間違えないようにお願いしたい。失礼になるからね」

 優しく七瀬に釘を刺す。
 彼女はそれに頬を染めて頷いてからまた孝也に問いかける。

「そうなんですね、わかりました。じゃあ、リゾートへは誰と一緒に…? もしかして彼女ですか」

 またまた直球な七瀬の質問に、孝也は苦笑して頷いた。

「まぁ、そうだね」

「えー!!」

 七瀬が大きな声をあげる。晴香も後ろで目を剥いて、彼女と同じように声をあげてしまいそうになるのをなんとかこらえた。
< 109 / 206 >

この作品をシェア

pagetop