契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也、何言ってるの!?と視線だけで問いかけるが、本人はわずかに眉を上げただけで、晴香を無視した。

「だから、今年はどうしても休みがほしくて、馬車馬のように働いたんだ。おかげでなんとかなりそうだよ」

 聞かれてもないのにそんなことまで言ってはははと笑う孝也を、晴香は睨む。だがまったく堪えていないようだった。

「これはまた…大騒ぎになりそうな爆弾発言ですね」

 田所が嬉しそうにしている。頭の中はこのゴシップをどこに広めようかと算段しているに違いない。
 一方で爆弾発言をした張本人は、

「大げさですよ」

と言って、爽やかに笑った。
 七瀬ががっかりだという気持ちを隠すことなく口を開いた。

「副社長に彼女がいらっしゃるなんて残念です…。副社長の婚約の話はデマだったって知って、本社の女の子たち喜んでたんですよ! …彼女がいるなんて知ったら、やる気なくなっちゃうんじゃないかな」

 孝也がくすりと笑う。

「それは困るな。でも僕もいい歳だし、べつに普通のことだろう?」

「それはそうですけど…。副社長、彼女さんってどんな方なんですか?」

 メンタルが強いのが自慢の七瀬は、まだまだ孝也から情報を聞き出そうとする。
 孝也が、またちらりと晴香に視線を送った。

「そうだな…」

 そう呟いて、ニヤリと笑う孝也に晴香は嫌な予感がする。慌てて小さく首を振るけれど、孝也はまったく意に介さず、七瀬の方に向き直ると言葉を続けた。

「普段はあまり目立たないタイプなんだけど実はとても可愛らしい人だよ。真面目で気配りができて…。僕より歳上で、時々急にお姉さんぶる時があってそれが面白いんだ。自分ではしっかりしているつもりみたいだけど、実はあんまりそうでもなんだよね」

 そう言って孝也はくっくと笑う。
 晴香はうつむいて、もはや彼を見られなかった。
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