契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香はキッチンでグラスにミネラルウォーターを注ぐ、そして孝也の元へいくと、ソファに座ったままの彼に手渡した。

「あぁ、ありがとう」

 孝也がグラスの水をごくごくと喉を鳴らして飲む。その男らしい喉元を見つめながら晴香は彼に問いかけた。

「孝也、…大丈夫?」

 水を飲み干してひと息つくと、孝也は晴香を見て微笑んだ。

「大丈夫だよ。お酒には強いんだ。晴香だって、知ってるだろう」

 おそらくはわざと平気そうにしてみせている孝也の言葉に、晴香は小さく首を振る。

「そうじゃなくて、ここのところ忙しすぎるんじゃないかと思って」

 孝也がお酒に強いのは知っている。以前ふたりで飲みに行っていた時もほとんどノンアルコールの晴香に対して、彼はいつも強いお酒を飲んでいた。でもちっとも普段と変わらなくてそれが不思議で仕方がなかった。
 だから飲み会の後だとはいえ、こんな風に彼が疲れて見えるのは、酔いが回ったせいではなく、疲労からくるものなのだ。
 孝也はそんな晴香の考えを読んだように頷いた。

「うん、そっちも大丈夫。全然帰ってこられなくて申し訳なかったけど、おかげで明日からは休めるよ」

 晴香はホッと息を吐いて頷いた。

「よかった…」

 晴香の言葉に、ソファにもたれたまま孝也は晴香を見上げる。そして眩しそうに目を細めた。

「心配だった?」

「…あたりまえじゃない」

 "孝也は私の夫なんだから"という言葉を飲み込んで晴香は孝也から目を逸らした。今の自分が口にしていい言葉なのかどうなのかの判断がつかなくて。
 だがそんな晴香の内心を他所に、孝也は嬉しそうにふわりと笑う。そして九十度曲がったソファの反対側に座った晴香を優しい瞳で見つめた。

「心配してくれるなんて、優しい奥さんだ。でも先に寝ててよかったのに。晴香お寝坊さんなんだから、こんなに遅くまで起きてたら明日起きられないよ」
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