契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~

晴香の真実

「お義母さん、角煮を作るんだったら呼んで下さいって、前から言ってるじゃないですか」

 ぷりぷりとして美紀が文句を言う。

「だって美紀ちゃん、お盆だし実家に行ってゆっくりしてるのかなぁって思ったんだもの。姑から誘われたら断れなくて嫌でしょう?」

 広子が口を尖らせて反論した。

「私ダメなときダメって言いますから。じゃなと同居なんてできないでしょう? とにかく、角煮を作った時は絶対におしえて下さい」

「わかったわ…」

 テーブルにどんと置かれた角煮を挟んで、ぽんぽんと会話を続けるふたりを交互に見ながら晴香はくすくすと笑った。
 今夜晴香は、久しぶりに実家に帰っている。
 夕方までは孝也も一緒だったのだが、健太郎と約束をしたなどと言って出て行った。今は近くの飲み屋にいるはずだ。

『晴香はおばさんと積もる話もあるだろう?』

 なにしろ結婚が急だったから、実家にも母にもゆっくりとはお別れを言えていない。
 だからと言って今更改まって何か言うというわけじゃないがその孝也の気遣いを晴香は素直にありがたいと思った。
 夕食は久しぶりの母の手料理を堪能した。話も弾んで楽しい時を過ごしたが、ひとつだけ困った問題が浮上した。料理がたくさん余ってしまったということだ。
 家に誰か来るとつい何か食べさせたくなるというのが晴香のクセなのだが、どうやらそんなところは母からから受け継いだようだと、今更ながら晴香は思う。
 もう晴香のお腹はいっぱいでこれ以上は食べられないというのに、テーブルにはまだたくさんの料理。
 困ったなぁ、と頭をかいていると玄関の呼び鈴が鳴って、救世主が現れた。
 サンダルを引っ掛けて、缶チューハイが入ったエコバッグを下げた美紀だった。
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