契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「晴香先輩…じゃないや、お姉さんが来てるって聞いたから久しぶりに飲もうと思って」

 そしてテーブルの上の広子の角煮を見て、お説教が始まったのである。
 広子の角煮は晴香だけでなく、美紀の大好物でもあるのだ。しかも料理には少々こだわりのある広子が近くの肉屋でいいブロック肉が入った時にだけ作るというメニューだからいつでも食べられるというわけではない。
 美紀はその少ないチャンスを逃しそうになったと文句を言っているというわけだ。そしてそれは晴香にも飛び火した。

「お姉さんも、角煮の独り占めはいけませんよ。これはみんなで分け合わなくちゃ」

 いかにも真剣なその視線に晴香は笑いが止まらない。

「どっちにしろお裾分けしようと思って冷蔵庫にまだたくさんあるのよ」

 広子は立ち上がってキッチンの方へ消えていく。晴香と飲むために来たという彼女のために、他にもつまみを用意するつもりなのだろう。
 晴香もグラスを取って来て、彼女の分のチューハイを注いだ。

「ありがとうございます」

 礼を言う美紀に晴香はにっこりと笑いかける。

「こっちこそ、私の分も買ってきてくれてありがとう」

 そして自分のためのノンアルコールのビールをグラスに注いだ。
 美紀は酒に強い方だ。家も近所なのだから、ノンアルコールは必要ない。それなのにエコバッグの中にたくさんのノンアルコール製品があるのは、晴香のためにほかならない。
 グラスをチンと合わせ、ビールを飲みながら、健太郎は本当にいい人に巡り合えたと晴香は思った。

「美紀ちゃんお休みはいつまで? もう実家には帰ったの?」

 晴香が尋ねると美紀はチューハイを一気に半分ほど飲み、口を開いた。

「あと三日です。実家には…近いんでしょっちゅう帰ってますから、あえてこの時期には帰りません。兄夫婦が来てたりして手狭だし」

 晴香はなるほどと頷いた。
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