契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そう言って、美紀はニカッと笑った。
 晴香の方は思いがけない話の内容に、ちょっとあぜんとして、ため息をついた。

「孝也って本当に人気があったのね…」

 人気があるとは聞いていたが、晴香自身は家以外では彼とは接触がなかったから、これといって実感はなかった。
 美紀がぷっと吹き出した。

「お姉さん、全然久我君に興味がなかったんですね! そういう話しなかったんですか?」

 はははと笑う美紀に晴香は慌てて首を振った。

「興味がないわけじゃなくて、男の子って身内からそういう話をされるのをすごく嫌がるでしょう? 健太郎も美紀ちゃんと付き合い始めの頃は聞くとすごく怒ったもの。きっと孝也も同じなんだろうって思って。…気を遣ってたの」

 晴香の言い訳のような言葉に美紀は一応は納得して頷いた。

「本当に姉弟みたいな関係だったんですね。でもだからこそ、みんなびっくりしてましたよ。まさか久我君の噂の人がけんちゃんのお姉さんだったなんて盲点だったって。当時あれほど…」

「ちょ、ちょっと待って美紀ちゃん」

 なんだか聞き覚えのあるワードに晴香は思わず美紀の言葉を遮った。
 そういえば結婚を報告したときも彼女はそんなことを言っていたと晴香は記憶をたぐり寄せる。あの時孝也は話題がそれてホッとしていたようだった。
 知られたくないことなのだろうかと思いつつも好奇心を抑えられず、晴香は美紀に尋ねた。

「前も言ってたよね? その…噂の人って…なに?」

 噂の人。
 なんだか"過去の彼女"などとは比べものにならないくらい嫌な響きだ。
 美紀があぁ、と思い出したみたいに呟いて話し始めた。
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