契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「当時の久我君と付き合ったことのある女の子たちが言ってたんです。どうやら久我君には好きな人がいるようだって」

「孝也に…?」

「そうです。久我君って、すごく人気で彼女が途切れなかったんですけど、自分から告白したことはなかったんです。そしてその元カノ達が言うには、どうやら彼には誰か別に好きな人がいるようだって話でした。付き合うとすごく優しいしもちろん浮気もないんだけど、どこかドライで誰にも本気にならないみたいだって」

 思いがけない美紀の話に晴香はビールのグラスを握りしめて耳を傾けた。

「初めは元カノのうちのひとりが言い出したんじゃないかな。そしたら他の子も、私もそう感じたとか言って…。本人に聞くとそんな人いないって言うんだけど久我君にしては珍しく怒るんだって。普段はどちらかというと優しくて穏やかなタイプだから、余計にあやしいとか言われて…」

 美紀はそこで言葉を切って、テーブルにグイッと身を乗り出した。

「それで久我君のファンの子たちがみんな躍起になって久我君の噂の人を探してたんです。他校の子だっていうのが有力な説だったんだけど、不思議だったのは久我君なら告白すれば付き合える可能性もあるはずなのに、それをしないで逆に告白された子と付き合うなんていったいどういうことだって、憶測が憶測を呼んで…」

 美紀は秘密の話をするかのように、ちょっと声を落とした。

「最終的には好きなっちゃいけないような禁断の相手なんだってことになっていました。例えば学校の先生とか、妹とか…ふふふ、久我君はひとりっこなのに。あ、健太郎だって説もあったんですよ」

 美紀がくすくすと笑う姿に同じように微笑みながら心の奥が冷えていくような奇妙な感覚を晴香は味わっていた。
 孝也には人には言えないような好きな人がいた?

「でも、それってあくまでも噂でしょう?」

 晴香はどこかうわの空でそんなことを言ってみる。学生時代なら晴香はずっと近くでみていたけれどそんな気配は微塵も感じなかった。
 美紀が笑うのをやめて首を振った。

「ところが大人になってから、あの噂が本当だったってことがわかったんです」

「本当だった…?」
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