契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 その疑問に対する答えが、ここにあると晴香は思う。
 孝也はもう新しい出会いを、新たに人を愛するということを望んではいない。ずっと想い続けたひとりの女性だけに、自らの愛を捧げていたいとそう決意したのでは?
 どうしてもその人とは一緒にはなれないならばもう誰とも恋愛なんてしたくない、そんな思いを三年前晴香も嫌というほど味わった。
 でも人並みに家庭は築きたい…。
 晴香の背中をぞわりと嫌な感覚が走る。また、パズルのピースがパチリとハマる音がした。
 だとしたらすべて納得がいくじゃないか。
 心の中でその人を愛し続けるのは自由だ。たとえ相手と添えなくても、ずっと好きでいるだけで、それだけでいいと思う人もいるだろう。でもそんな人が、それでも家庭を築くとするならば、普通の相手ではあまりにも不誠実。愛していると嘘をつき続けることになるのだから。
 では晴香なら?
 そこまで考えて、また晴香の中でピースがハマり、孝也が描く完全なる未来図が完成した。
 なぜ彼があれほどまでに、『晴香がいい』と言ったのか、その理由を晴香は今ようやく理解した。
 孝也に、恋愛感情を抱かないで、しかも普通ではありえない結婚をしようと言える相手は晴香しかいないのだから。
 頭の中がシンと冷えて、晴香は身動ぎすらできない。
 さっきまで幸せだと感じた目の前の光景が、急に色を失ってモノクロの世界になって晴香の目に映った。
 美紀がほろ酔いで頬杖をついてにっこりとした。
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