契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「天気がよくてよかったね。思ったほど道も混んでなかったし」

 機嫌よく言って、キングサイズのベッドの脇に荷物を置く孝也を横目に、晴香は唖然として部屋を見回した。
 たまたま予約が取れたと孝也が言ったリゾートホテルにさっきふたりは到着した。孝也と晴香が住む街からは高速を使って一時間半のこの海辺の街には、晴香も何度も来たことがある。
 海が綺麗で食べ物が美味しいから、孝也の家族とキャンプに来たこともある場所だった。
 でも孝也が車を走らせて到着したこのホテルはおよそ晴香の想像していたものとは比べものにならないくらい高級だ。全室たった十部屋しかないという部屋には、ひとつひとつにプライベートプールが付いていて、そこから紺碧の海を眺められるという贅沢さ。こんなホテル、晴香は雑誌でしか見たことがない。

「晴香? どうかした?」

 ドアの前で突っ立ったまま、動けないでいる晴香を振り返って、孝也が首を傾げた。

「疲れちゃった?」

 晴香はゆっくりと首を振った。

「ちょっとびっくりしちゃって。こんなに贅沢な部屋だと思わなかったから」

 孝也がくいっと眉を上げて、意味ありげな表情で晴香を見る。そしてベッドに腰掛けて、にっこりと微笑んだ。

「新婚旅行にはぴったりじゃない?」

 その様子に、『本当の夫婦になろう』と言った彼の言葉が脳裏に浮かんで、晴香の頬が熱くなった。

「し、新婚旅行だったんだ、これ」

 頬の火照りをごまかしたくて晴香は適当な言葉を口にする。
 孝也がニヤリと笑って頷いた。

「もちろん、晴香が勇気を出して会社のみんなに言うことができたら、晴れて新婚旅行休暇を取れるから、もっといいところに連れて行ってあげられるよ。それまでは近場で我慢してもらうしかないかな。…まぁ、プレ新婚旅行ってとこ?」

「ここが、…プレ?」

 晴香はしばしの間絶句する。
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