契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そのあとの夜までの時間はとくに何もせずに、部屋でのんびりと過ごすことにした。
 少し気を抜くと美紀の話を思い出して浮かない気分になってしまう晴香とは対照的に、孝也の方は心なしかいつもより上機嫌で、体調が大丈夫ならばと晴香をプールに誘った。
 目の前に広がる青い空と青い海を眺めながらふたりだけで入るプールは、海鳥の鳴き声と波の音しか聞こえない贅沢な空間だった。
 この世界はふたりだけのためにあるようなそんな錯覚をしてしまいそうになりながら、晴香はキラキラと太陽の光を反射させている少し冷たい水にちゃぷんと足を浸した。

「気持ちいい…」

 そんな晴香を横目に見ながら、孝也の方はザブンと音を立てて水に入る。そしてそのまま気持ちよさそうにぷかぷかと浮かんで、プールの中を漂い始めた。
 その姿に晴香は小さい頃を思い出す。小学校の夏休みに、晴香はよく孝也と健太郎を連れて学校のプール解放に行った。
 ふたりはプールが大好きで、晴香がいくら準備運動をしろと口うるさく言っても、水を見ると走り出しザブンと入ってしまう。そしてずっと水の中にいて、なかなかあがってこないのだ。
 少し泳ぎが苦手な晴香は、大抵プールサイドに座って足だけを水につけてそんなふたりを見守っていた。
 あの頃と同じように気持ちよさそうに潜ったり浮いたりしている孝也見つめながら、こんな風に彼を独り占めできる時間があるのだから、それでいいじゃないかと晴香は自分を納得させる。
 たとえ心が誰かのものだったとしても。
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