契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「…ほら、こうやって慣らしておかないと。今夜、怖くないように」

 直接耳に注がれる、少し荒い彼の息がとんでもないことを告げている。
 強い刺激から逃れようと、晴香は懸命に首を振るが、うなじに差し込まれた大きな手に阻まれた。

「あ、た、孝也…。ダ、ダメ…! んんっ…!」

 拒否は許さないとばかりに今度は唇を塞がれる。
 晴香の言葉と心を奪ってゆく。
 いつもより少し強引な孝也の行為に、晴香はなす術もなくただ彼にしがみつき身体を震わせるのみである。熱くて柔らかくて晴香をおかしくさせる孝也の唇に、思考を絡めとられて、何もかもわからなくなってゆく。
 愛してる、大好き、私だけのものになって。
 言えない言葉が晴香の頭の中をぐるぐる回る。
 心と身体髪の先に至るまで、晴香のすべてが、彼を求めて恋い焦がれて、彼をほしいと言っている。この気持ちを鎮める術があるならばおしえてほしいと晴香は思う。
 苦しくて、やるせなくて、どうにかなってしまいそうだ。今夜彼に抱かれたら、少しは楽になるのだろうか。
 孝也の身体だけ手に入れて、それで少しは満足できる? 
 …わからない。
 わからないけれど、今の自分に残された道はそれだけなのだ。
 それしかないのだと、晴香は自分に言い聞かせた。
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