契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 シャワーを浴びてすっかり寝支度を整えた晴香は大きな窓に手をついて外の景色を眺めている。
 ライトアップされたプールの向こうには昼間は確かに紺碧の海が広がっていたはずなのに、今は真っ黒でなにも見えない。ただ細い月が頼りなく浮かんでいるだけだった。
 まるで自分の未来を見ているようだと晴香は思う。
 あの真っ黒な先に、いったいなにがあるのか、さっぱりわからないけれど、細い月の光を頼りに進むしかないのだ。
 しかもその光が満ちるのか欠けるのか不確かなままで…。
 怖い。
 怖くてたまらないけれど、進まなくては。
 その時、バスルームのドアがガチャリと開いて、孝也が出てくる気配がした。
 晴香はびくりと肩を震わせて、振り返ることが出来なかった。どきんどきんと胸の鼓動が痛いくらいに鳴り始める。
 初めて男性と身体を重ねた時もこれほどまでには緊張しなかった。その時晴香の胸にあったのは、愛する人と結ばれるのだという幸せな気持ちだけだったから。その先に幸せなふたりの未来があるのだということを信じて疑わなかったから。
 今、晴香の胸にあるのは、とてつもなく大きな不安。晴香の中に存在する孝也への愛情が、それをよりいっそう大きなものにしていた。
 愛する人に愛されないまま抱かれたら、自分の心はどうなってしまうのか。
 わからなくて、ただ、怖い。
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