契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「そう。だから俺に寄ってくる女子は大抵は孝也目当てってわけ。女ってずるいよな、初めはなにも言わないんだもん。でも仲良くなると必ず久我君も…って言い出してさ。俺、女嫌いになりそうだった」

 ガックリと肩を落とす健太郎を美紀が肘で突いた。

「けんちゃん私のことも疑ってたでしょー」

「仕方ないだろー。苦情は全部孝也に言ってくれ。あいつがモテすぎるのが悪いんだ」

 うんざりとしたように首を振って健太郎は言う。そして思い出したように少し遠い目をした。

「特にあの時はひどかったな、ほら、なんだっけ。孝也に…好きな人がいるんじゃないかっていう噂が流れ出した時」

 晴香の胸がどきんと鳴った。
 健太郎の言う好きな人の話が、孝也が長年想い続けているという女性のことだとすぐに思い当たったからだ。
 そういえば健太郎はその人が誰なのかを知っているのだろうか。同じように幼なじみとしてそばにいた晴香には検討もつかないが、同性同士の健太郎なら相談を受けていてもおかしくはないだろう。
 聞いてみようか、と晴香は一瞬思う。聞いてどうなるのものでもないけれど、それが本当に叶わない恋なのか、少なくとも今は妻である晴香にとっては無関係ではないだろう。
 でも晴香はその自分の考えをすぐに打ち消した。そんなもの聞いていいことはなにもない。

「女どもが寄ってたかって誰なんだ誰なんだって。半分脅すみたいなやつもいるんだから、怖かったなぁ。泣きそうな顔で、『久我君の気持ちを受け入れてあげてー』なんて言うやつもいたんだぜ。今なら笑い話だけど」

 そう言って健太郎は、はははと笑う。

「絶対にけんちゃんだって思い込んでる子たちもいたからね」

と言って、美紀もケラケラと笑った。
 晴香はそんなふたりを複雑な気持ちで見つめていた。いつか、この話を聞いても胸が痛まない日が来るのだろうかと思いながら。
 健太郎がひとしきり笑ってから目尻の涙を拭き晴香の方を見て、ちょっと得意そうに胸を張った。

「でも、どんなにしつこくされても、脅されても、俺絶対に口を割らなかったんだから感謝してほしいよ。まったく」
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