契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香は意識して笑顔を作り頷いた。

「健太郎と孝也は本当に仲良しだったもんね。裏切れないよね」

 そしてやっぱり健太郎は相手の女性が誰なのかを知っているのだと思った。あたりまえか、彼らは兄弟みたいな関係なのだから。
 でも納得すると同時に晴香は少し健太郎のことを憎らしく思う。
 だって曲がりなりにも晴香は孝也の妻なのだ。妻の前で夫の過去の女性の話をするなんて。
 そういえば健太郎は昔から晴香の弱みを見つけるといつもしつこくからかってきて嫌だった。もう結婚もして新しい家も建てるというのに、いつまでも子供みたいなことを言っていて大丈夫なのだろうかと、晴香が心配になった時、健太郎がちょっと意外なことを言った。

「いや、孝也じゃなくて姉ちゃんに感謝してほしいって言ってるんだよ」

 晴香は眉を寄せて健太郎を見た。

「?…なんで私が」

 晴香には健太郎の言葉の意味がわからない。
 一方で、健太郎の隣の美紀は"ぴーんときた!"とでもいうように目を輝かせている。
 それをジッと見つめて晴香はもう一度考えてみるけれどやっぱりわからなかった。
 健太郎が孝也の秘密を守り抜いたとしてそれをなぜ晴香が感謝しなくてはいけないのか。
 今はもう夫婦だから?
 黙ったまま首を傾げる晴香に健太郎は「だってそうじゃないか」と言った。
< 166 / 206 >

この作品をシェア

pagetop