契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「姉ちゃん、まだなんにも聞いてなかったのか。孝也、ちゃんと言うって言ってたのにな…、あいつ本当にヘタレだな」

「長く長く想いすぎてこじらせちゃったのかな」

 美紀がふふふと笑うのを見つめながら晴香はゆっくりと首を振った。

「そ、そんなの信じられない。孝也はなにも言わなかったもん。結婚の話が出たときだって…」

 でもそこまで言いかけて、これ以上はダメだと思い口を噤んだ。これ以上言うと恋愛感情ぬきのお友達結婚をしたことがふたりにバレてしまう。
 いやでもそもそも、晴香と孝也は本当にお友達結婚だったのだろうか。
 健太郎が眉を寄せた。

「あいつが姉ちゃんになにを言ったかは俺知らないよ。でも少なくともあいつの態度を見れば、すぐにわかることだと思うけど。…俺からしてみれば」

「孝也の態度…?」

「そう」と健太郎は頷いて、なにかを思い出すように首を傾げた。

「小さい頃から姉ちゃんにくっついてまわってさ、大好きってずっと言ってたじゃん。それから、放課後子供だけで留守番するようになってからは、いっつも料理をする姉ちゃんと一緒にキッチンにいてた。手伝うとか言って」

「なにそれ、久我君かわいい!」

 美紀が声をあげるのを聞きながら、晴香はそれでもだからといって孝也が自分のことを異性として好きだということにはならない思った。
 確かに健太郎の言うとおり孝也は晴香にくっついてまわっていた。大好きって言って…。でもいくらなんでも、保育園の頃の話は時効だと晴香は思う。
 それに小学生になってからは言わなくなった。
 晴香はもう一度首を振る。
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