契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「それは、私たちが姉弟みたいな関係だからよ。孝也は、ひとりっこだったからお姉ちゃんがいる健太郎がうらやましいって小さい頃はよく言ってたじゃない。だから家に来た時は、私のことをお姉ちゃんみたいに思って…」

「中学生になっても?」

 健太郎が呆れたような声をあげて、晴香の言葉を遮った。

「姉ちゃんの言ってることもわかるよ。あいつにそういう気持ちがあったっていうのも事実だろうし。でも中学になっても変わらなかったじゃん。俺中学生の頃姉ちゃんについてまわってた?」

 晴香は「え」と声を漏らしたまま黙り込んでしまった。
 確かにあの頃は、健太郎の方とはほとんど話さなかったような。それなのに「姉ちゃんメシ!」だけいうのだから何度頭を叩いてやろうと思ったことか。
 でも孝也の方は、いつも手伝ってくれて、食べたあと、美味しかったってちゃんと感想をくれたりしたんだ。こっちの"弟"の方が出来がいいなんて思っていたけれど…?

「社会人になってからも、そうじゃないか。俺ぬきでふたりで飲みに行くようになってさ。孝也から誘ってたんだろう?」

 晴香は混乱する頭の中を整理することができないままにこくんと頷いた。
 確かに大抵は孝也の方から、誘ってきた。おいしい店を見つけたからなんて言って。

「でもあれも…」

 晴香は自信なく呟く。

「姉と弟だったって?」

 続きを引き取ってから、健太郎は大きくため息をついた。

「姉ちゃん俺とサシ飲みしたことあんのかよ」

「な、ないけど!」

 晴香は思わず声をあげた。

「でも同じ業界に勤めてるから、話が合ったんだもん! 健太郎だって美紀ちゃん以外の友達と飲むでしょう?」

「そうだけど…」
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