契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 突然、孝也の手に晴香のアゴは捕らえられる。そしてそのままぐいっと上を向かせられると、視線の先には射抜くような彼の視線。

「たか…っ、ん…!」

 言葉が溢れる晴香の口に、孝也の唇が覆いかぶさる。言いたかった言葉、聞きたかった疑問は、そのまま孝也の中に消えてゆく。

「ん…、ん、ん」

 久しぶりのキス。
 初めからすごく熱くてすごく深い。でもそれを晴香は喜んで受け入れる。互いの想いを絡め合い、熱い息を交わし合う。
 彼に会ったら、言いたい言葉がたくさんあった。聞きたい疑問がたくさんあった。
 けれどもう、なにも頭に浮かばない。
 今、晴香の身体を駆け巡るのは、孝也に触れられた喜びだけ。彼を愛おしいと思う気持ちだけ。
 頭の中が孝也でいっぱいになってゆく…。

「晴香、晴香…」

 息継ぎの合間に紡がれる自分の名が、真実を告げている。
 晴香は今ようやくそのことに気がついた。
 真っ赤に染まる晴香の耳に、孝也の熱い息が囁いた。

「晴香、愛してるよ。…でもごめん、話はあとだ。とにかく、今は晴香を俺のものにしたい…。ごめん、もう待てない」

 余裕のない孝也の言葉が、晴香の胸をなお一層たかぶらせる。
 晴香だって、もう一秒も待てなかった。孝也すべてが今すぐほしくてたまらない。
 今すぐ、彼のものになりたい。
 孝也の手が身体中を強い力で辿り始める。その感覚に晴香の身体は火が着いたみたいに熱くなる。

「孝也、孝也…!」

 彼を愛おしいと思うこの気持ちに身を任せて、晴香は目の前の自分に飢えた獣に落ちてゆく。

「晴香、晴香、晴香…」

 都会の夜空に浮かぶ満月が、もつれあうようにベッドに沈むふたりの影を、温かく照らしていた。
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