契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 絶え間なく孝也の口から紡がれる「好きだ」「愛してる」の言葉たちが、晴香の心に降り注ぎ、他のものは入り込む余地がないほどに晴香をいっぱいにしていった。
 誰にも愛されていないのだと嘆き悲しんだ胸の傷はきれいさっぱりなくなった。
 うまく言葉にできなくて言い淀む晴香の思いは、それでも彼に、なんとか伝わったようだ。
 ようやく孝也が起き上がり、晴香を引き寄せ、胸に抱いて微笑んだ。

「余裕がなくてかっこ悪かったなって自分でも思うけど、おかげでどれだけ俺が晴香のことを好きかってことが伝わったみたいだ」

 晴香は頬を染めたまま、彼の言葉に頷いた。
 そう、どれだけ彼に愛されているのかを全身で感じることができた。
 余計な言葉は、いらなかった。
 晴香は自分を包む腕に身を任せて、その幸せを噛みしめる。そして素直な感想を口にした。

「でも、全然気がつかなかった。孝也がそんな風に私のことを見ていたなんて」

 そんな晴香の呟きに、孝也がわずかに反応する。形のいい眉をぴくりとあげて呆れたような視線を晴香に送る。
 彼の様子に晴香の方も眉を寄せた。

「…なに? 孝也」

「いや、べつに」

 やっと気がついたかと言った昼間の健太郎みたいに、呆れたような孝也の様子に晴香は少しムッとする。だってそんなの言葉にしてくれないとわからないじゃないかと思いながら。
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