契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「キスをしたり、抱きしめたり? 付き合ってもないのに、晴香、そんなの受け入れられる?」

「そ、そうじゃなくて、そういうことはしないでも、それとなく…それとなく」

 言いながら晴香は健太郎の言葉を思い出していた。

『孝也の態度をみればすぐにわかることだと思うけど』

『俺とだってそんなに頻繁には飲まないよ!』

 ちょっと待って。もしかして孝也はそれとなく態度で示していた?
 恐る恐る彼を見るとそれを肯定するかのような呆れた表情。
 やっぱり…。
 晴香は肩を落として眉を下げた。

「孝也、ごめんなさい…私、ちょっと鈍いのかも」

 突然素直に非を認めた晴香に、孝也が一瞬目を丸くして、次の瞬間ぷっと吹き出した。そしてそのまま声をあげて笑い出す。

「ごめん、ごめん! ちょっと意地悪言いすぎたよ。気にしなくていいんだ、晴香。俺、晴香のそういうところも好きなんだから!」

 そして愛おしむように頬にちゅっと口づけて、優しい眼差しを晴香に送る。

「全部、大好きなんだ。だからどうしても結婚したくて、絶対に失敗したくなかったんだよ。それこそ晴香が俺を男として見られていなくてもそれでもいいって思ってた。…俺の方こそ、混乱させて悪かった。ごめん、晴香。許してくれる?」

 最後の方は甘く晴香の耳に囁くような孝也の言葉に、晴香はこくんと頷いた。
 ずるい人だと晴香は思う。
 こんな風に囁かれて晴香がノーと言えるはずがない。
 でもそういえば、結婚してすぐの夜からこんなやりとりが始まった。あの時からこうなることは決まっていたのかもしれない。
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