契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 普段はどこかひょうひょうとして、なにを考えているのかわからないところがある孝也の意外なくらい熱い思いに、晴香の胸も熱くなる。
 それは他の皆も同じだったようだ。若い営業マンが目を潤ませている。
 田所が孝也に右手を差し出した。

「副社長、微力ですが私もお手伝いいたします」

 孝也がその手をがっしりと握った。

「よろしくお願いします」

 そして少しだけ、心配そうに港店のメンバーを見回した。

「晴香を追って後から来た僕が言うのもおかしな話かもしれませんが、彼女は本当にこの仕事が好きなんです。結婚の報告をした時、社長は本社に呼んで秘書にすればいいなんておっしゃっていたけど僕はできればそれはしたくない。このまま港店で働き続けてほしいと思っているんです。港店の皆には少しやりにくい思いをさせてしまうかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」

 孝也はそう言ってぺこりと頭を下げた。
 そんな彼を見つめながら、また目にじわりと涙が浮かぶのを晴香は感じていた。
 今彼がこうやって皆にお願いしてくれているのは、結婚前に晴香が口にした、結婚したら今まで通り働けなくなるかもしれないという不安を受けてのことなのだと思う。
 晴香も彼の隣で皆に向かってぺこりと頭を下げた。

「言われなくても!」

 田所が胸を張った。

「そうですよ。北見さんがいなくなって困るのはこちらです! 本社に呼んだりしたら許しませんよ」

 他のメンバーからも声があがる。嬉しくて、ありがたくて、感謝の気持ちで晴香の胸がいっぱいになった。
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