契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也がくすくすと笑いながら晴香を見る。晴香は密かな自分の趣味が暴露されているのも忘れて、言葉を失って孝也を見つめた。
 信じられない、ありえないと思うけれど、彼の言うモノで釣ったというモノとはまさか…。

「だから、以前見せてもらったファイルのラインナップの中で、一際付箋が多かったマンションを買って、一緒に住まないかって持ちかけたんですよ。そしたら…」

「嘘でしょ⁈」

 晴香はもうわけがわからなくなって思わず立ち上がる。
 だってまさか、自分と結婚するためにそこまでするなんて!

「もちろん本当だよ。だってあんな広いマンション、独身の俺には必要ないもんね。掃除だって大変だし」

 孝也が平然として言った。

「ほぇ~! …それは副社長じゃないとできませんねぇ。僕にはそんな財力はない」

 営業マンも唖然としている。
 孝也は、はははと笑って首を振った。

「べつにお金をかけろってことじゃないよ。相手の人の好きなことをしっかりリサーチして、ピンポイントで攻めるのが効果的ってこと」

 真面目な顔をして、とんでもない話をする孝也に晴香はもう呆れかえってしまう。
 営業マンの方は、

「なるほど、それってお客様相手でも通じる話ですよね」

などと言って納得した。

「信じられない…」

 呟いて晴香はストンと席に座る。
 知らなかった事実に頭が混乱してもうなにがなにやら…。
 そんな晴香に梨乃が苦笑して囁いた。

「もはや、ちょっとしたストーカーね」

 それを耳ざとく聞きつけて、孝也が満足そうに微笑んだ。

「粘り強くないと、この仕事はやっていけないからね」
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