契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 もう少しして開店時間になれば、家族連れがぞくぞくと詰めかけて、思い思いに描く未来図を語り合うに違いなかった。
 それは晴香にとって大好きな光景で、誰かの幸せな未来のための手伝いができるのだと思うと、胸がワクワクと踊る。
 ……でもここ数年は、まったくそれだけというわけにはいかなかった。
 そのことに思いを馳せて、まだ一日は始まったばかりだというのに、晴香は少し憂鬱な気分になった。
 その時。

「晴香!」

と、声をかけられて晴香は振り返る。店の奥から出てきたのは同僚の西沢梨乃(にしざわりか)だった。

「開店準備、やっちゃったの!? 大鳥さんは?」

「まだ来てないみたいだから。いいよ、水やりのついでだし」

 少し目を険しくして言う彼女をなだめるように晴香は言った。
 営業事務である晴香たちの仕事内容は多岐に渡るが、この開店準備に関しては新人がやるというのが店舗のルールである。
 港店には、パート従業員を除く営業事務の女性社員は三人。
 晴香と同期の梨乃、それから今年の春入社したばかりの大鳥七瀬(おおとりななせ)である。
 原則に則れば、今晴香がしたことは七瀬がやるべきことなのだ。
 だが彼女はいつもギリギリの時間に出社する。今日も、まだ来ていなかった。
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