契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 席に戻ってからも七瀬は不満そうに晴香を見ていた。うまく誤魔化せたとはいえないだろう。

「名前なんて、社員ならちゃんと把握してるよ。晴香だけじゃなくて、西沢さんも大鳥さんも」

 孝也がなんでもないことのように言った。

「そもそも俺は晴香とのことだって隠さなくてもいいと思ってる。もともとの友だちなんだ。なにも悪いことじゃないだろう?」

「それは…そうだけど」

 たしかに孝也は初めからそう言っていた。公私混同しなければなんの不都合もないだろうと…。
 でもそれは孝也の周りだけだと晴香は思う。
 もし今、晴香が孝也の幼なじみだということが会社の皆んなにバレたらどうなるのか…、あまり想像したくはないけれど、少なくとも今まで通りの地味で平穏な日々ではなくなるだろうと思う。
 そのくらい今の『セントラルホーム』では、久我副社長の影響力は大きい。

「営業マンみたいな口がうまい奴らと合コンなんて、大丈夫かなってちょっと心配になったんだよ」

 自分だって営業マンだったくせに、そんなことを言う孝也に晴香は少し憮然とした。

「大丈夫かなって、どういう意味よ。私、もう二十九よ」

「年齢は関係ないだろ」

「じゃあ、なにが関係あるのよ」

 晴香の不機嫌な問いかけに、孝也は一瞬チラリと晴香の方を見て、

「晴香、慣れてなさそうだし」

と、言った。

「な…!」

 思わず晴香は言葉に詰まる。
 弟みたいな相手から恋愛経験が少ないことを指摘されて、恥ずかしいのか口惜しいのか、はたまたその両方か。
 とにかく頬が熱くなるのを感じていた。
 孝也のくせに生意気!なんていう、小さい頃によく言っていた言葉が頭に浮かんだ。
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