契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 健太郎もちょっとしたことで、晴香のことを馬鹿にしたりする。弟というものはいくつになってもそういう生き物なのかもしれない。
 晴香はこほんと咳払いをして、姿勢を正した。
 どうにかして、姉の威厳を保たなくては。

「な、慣れてないなんて、孝也の想像でしょ? 私だって人並みに経験を積んできたのよ。営業マンだろうがなんだろうが、手のひらで転がしてみせるんだから」

 精一杯強がってみせると、それを聞いた孝也がぷっとふきだした。そしてそのまま、くっくっと肩を揺らして笑っている。
 あ、これ。絶対に嘘だと思われてる…。
 晴香は頬を膨らまして孝也を睨んだ。

「本当なんだから!」

 孝也はそんな晴香をチラリと見て、笑いを噛み殺しながら、

「わかった、わかった」

と言った。
 全然わかってないくせに、と晴香は心の中で悪態をつく。
 でも本当のところ、晴香の恋愛経験は孝也の想像する通りだった。
 もちろん晴香にだって、淡い恋の思い出くらいはある。
 だが、合コンで力を発揮できるほどの経験といえば一つしか思い当たらなかった。
 しかもそれが三年前にあっけなく散ってからは、ずっと恋愛には前向きになれないでいるのだから営業マンを手のひらで転がすなんて夢のまた夢なのだ。 
 
「とはいえ、気を付けるにこしたことはないよ。みんながみんな、いい人だとは限らないんだから。俺が一緒に行って見張ってるわけにもいかないし」

「そ、そんなことしてもらわなくても大丈夫よ」

 またもや保護者みたいなことを言う孝也に、"姉"としてのプライドが傷つけられたような気がして、晴香はじろりと孝也を睨んだ。

「それに梨乃がもう出席って返事を出しちゃってるの。行かないわけにはいかないわ」
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