契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也に促されて、晴香は高級ホテルのような廊下を進む。エアコンが効いてひんやりとしていた。
 高級マンションは廊下にまでエアコンが付いているのか、だったら共益費がかかりそうだなんて、晴香がいらない心配をしていると、孝也があるドアの前で立ち止まる。そして「ここなんだ」と言ってカードでセキュリティを解除した。

「どうぞ」

 その部屋の玄関は、外観と同じように高級感に満ちていた。ピカピカに磨き上げられた黒い玄関のタタキに、雰囲気のいいフットライト。
 五つ星ホテルそのものだ。
 でもなんだか少しだけ違和感を覚えて、先に靴を脱いで上がる孝也を見つめたまま、晴香は立ち止まった。
 人に貸す前提の部屋だから、当然クリーニングは済ませているはずだ。ここも、掃除は行き届いている。
 でもまったく生活感がないというわけではなかった。
 ピカピカの鏡みたいな床には男性ものの靴がひとつ、さっき孝也が脱いだ革靴の隣に並んでいる。それから備え付けの下駄箱の上には、鍵などの小物を置くための黒い皮のトレー、シルバーの靴べら。
 これはもしかして…。
 晴香は孝也の背中に向かって声をかけた。

「孝也、ここって、…誰か住んでるよね?」

 晴香の問いかけに、孝也がくるりと振り返る。そして、にっこりと微笑んだ。

「正解。俺の家だよ」
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