契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 一方で、孝也の方はといえば晴香の記憶にある限り、学生時代も含めて、いつも女の子に騒がれていたように思う。
 彼の女性遍歴を晴香はまったく知らないが、少なくとも恋人を作ろうと思えばいつでも作れる環境にいたはずだ。
 そんな孝也からしてみれば、このくらいのことは、何でもないことなのかもしれない。
 もしかしたら、さっき強がってみせた晴香をからかってるのかも…。こんなことでドキドキしてしまっていることがバレたら、また馬鹿にされるだろう。
 そんなことまで考えて黙り込んだ晴香に、孝也が再び問いかける。

「晴香?」

 そういえば、彼はいつから晴香のことを呼び捨てにするようになったのだろう。小さな頃は、『晴香ちゃん、晴香ちゃん』と付いてまわっていたくせに。
 やっぱり中学生の頃だったかな?
 
「晴香? 疲れちゃった? 大丈夫?」

 もう一度呼びかけられて、ようやく晴香はかなしばりから解けたようにハッとして、首を振った。 

「な、なんでもない…」

 でも頬の火照りはすぐには直らなかった。
 孝也が窓ガラスに置いた手を外して、そっと離れる。二人の間にできた距離に、晴香はホッと息を吐いた。
 孝也が、晴香の頭上でフッと笑った。

「…なにか、飲み物を持ってくるよ」

 そう言ってキッチンに向かう背中をじっと見つめながら、晴香は熱い頬を両手で覆った。
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