契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 なんだそうなのかと思い、晴香はくすくすと笑った。
 でも同時に、それで正解なのだと思う。なにしろ会社での彼は多忙だ。重要な取引や新しく持ち込まれる案件は、ひっきりなしだし、その合間にも時間を惜しむように店舗をまわる。
 よほど好きでない限り、家事は外注するのが得策だろう。
 でもあんなに広くて綺麗なキッチンが手つかずなんて、ちょっともったいない。そんなことを思いながら晴香はもう一口お茶を飲む。そしてほとんど無意識に、また部屋の中に視線をさまよわせた。
 その時、孝也がぷっと吹き出した。

「え? なに? 孝也」

 晴香は驚いて、肩を揺らして笑い続ける孝也を見る。
 孝也が笑いを噛み殺しながら指摘した。

「晴香、間取りを見たいんだろ」

「え!」

 正解だった。
 実は晴香は昔から、家の間取りを見るのが大好きなのだ。
 新聞の間に挟まっている不動産情報のチラシは、毎日くまなく目を通すというちょっと変な子供だった。
 『セントラルホーム』に就職したのも、大好きな間取りをずっと眺めていられると思ったから。営業事務は基本的には店舗から出ないが、ごくたまに営業マンに着いて現地を見に行ったりすることもある。
 そんな時は、もしこの家に自分が住むとしたらどこに何を置くだろう?なんて想像して、人知れずわくわくしている。
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