契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 不動産業は常にリスクと隣り合わせの業種で、誰にでも結果を出せる生易しい仕事でない。『セントラルホーム』では毎年たくさんの営業マンを新卒で採用するが、一定数は合わないと言って辞めてゆく。
 孝也が今の立場に着くためには、相当な努力が必要だったはずで、今だって誰よりも精力的に動きまわっている。
 それに見合った対価を受け取るのは当然のことだろう。
 孝也が広いリビングを見渡して、苦笑した。

「まぁ、宝の持ち腐れって言われてもおかしくはないけど、独り身にこんなに広いリビングは必要ないもんね。でも逆に、将来的なことを考えたらファミリー物件の方がいいかなって思ったんだ」

 孝也の言葉に、晴香の胸がツキんと鳴った。
 たしかに、近い将来結婚を考えているならば、単身用の物件を買うよりは、効率的だ。

「どっちにしてもここの資産価値は下がらないし、不要になったら売ればいいし」

 またもや敏腕営業マンの顔を見せて、孝也が微笑んだ。
 完璧と言ってもおかしくはないほど素敵なこの部屋に、近い将来、孝也は妻と住むのだろう。

「それもそうね」

 どこかうわの空で答えながら、晴香はさっきまでの興奮が急速にしぼんでゆくのを感じていた。
 ここに来るまでの車内で感じた、あの惨めな気持ちがまた胸の中に広がってゆく。
 家の数だけ家族の幸せがある。
 健太郎が建てる新しい家にも、…この部屋にも。
 でも晴香は、そのどれにも入ることはできないのだ。あのネオンの中にある、適当な部屋をみつけてそこでひとりでやっていくしかない。
< 47 / 206 >

この作品をシェア

pagetop