契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そんなことを考えて、晴香は小さくため息をつく。
 その晴香をジッと見つめていた孝也が、不意に意外なことを言った。

「…晴香なら、どう思う?」

「…え?」

「もしも結婚してこの部屋で夫と暮らすことになったとしたら」

 晴香は目をパチクリとさせて、孝也を見た。

「どうって…、すごくいいと思うよ。便利なだけじゃなくて住みやすそうだし」

 孝也は将来の妻がここを気にいるかどうか心配なのだろうか?
 だから同じ女性である晴香に意見を求めている?
 でもそれなら心配無用だと晴香は思う。ここが気に入らないなんて人よほどのセレブでない限り、いないだろう。
 孝也が、少し安堵したように「そう」と言った。
 その姿を晴香は少し微笑ましく感じた。
 敏腕副社長の彼でも婚約者のこととなると、こんな風に不安になるのだ。だったら、"姉"としてもう少しアドバイスをしてあげようなんてことを考えて、晴香は言葉を続けた。

「孝也が忙しくてあまり家にいられないとしても、セキュリティが万全だし安心なんじゃないかな。それに徒歩圏内で食料でも服でもなんでも揃うんだから最高だよ!」

 孝也が満足そうににっこりと微笑んた。

「部屋がひとつ空いてたから、子供が産まれてもすぐに手狭になるってことはないだろうし…」

 でもそこで、別のことが頭に浮かんで晴香は言葉を切った。
 孝也がそんな晴香の考えを読んだように口を開いた。

「でも子供ができたら、やっぱり戸建てで暮らしたい?」

 ずばりのことを言われて、晴香はためらいながらも、こくんと頷いた。

「あ、あくまでも私は、だけどね」

 そして、このマンションを否定するようなことを言ってしまって、孝也がまた不安になっていたらどうしようと思い彼を伺うように見るが、幸い特にそんな様子はみられない。
 晴香はホッと息を吐いた。

「うん、俺もそう思うよ。このあたりは子供と散歩できそうな場所もないからね。作りがいいとはいえ騒音も気になるし。やっぱり子供ができたら、ここは売って地元みたいに緑が多い場所に戸建てを建てることにしようかなぁ」

「それがいいと思う!!」

 晴香は身を乗り出して頷いた。
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