契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也が、晴香に代わって静かに口を開いた。

「…晴香はさ、どういう人と結婚したいの?」

「…え?」

 少し話題が変わったように感じて、晴香は戸惑い、掠れた声で聞き返す。
 
「その理想の家でさ、どういう人と家庭を築きたいと思うの?」

 孝也がゆっくりと確認するように言葉を続けた。

「合コンに行こうなんて思うくらいだから、彼氏も好きな人もいないんだよね。これから、探すんだろう?」

 晴香はこくんと頷いた。

「う、うん…」

「どういう人がいいの? どういう人なら結婚しようって思えるの?」

 もしかして、孝也は晴香に結婚相手まで紹介してくれるつもりなのだろうかと晴香は思った。だとしたら、どこまで彼は面倒見がいいのだろう。

「晴香?」

 問いかけられて、晴香は少し慌てて彼の質問内容を頭の中で繰り返す。
 一番に頭に浮かんだのは、数少ない恋愛経験の中にある三年前のつらい恋。でもその男性(ひと)は別れ際に晴香に呪いをかけた。もはや、彼にいい想いは存在しない。
 じゃあ他に誰が?と晴香は自分に問いかけてみる。けれど残念ながら何も思い浮かばなかった。

「晴香?」

 再び孝也に催促されて、晴香は慌てて口を開く。

「えーと…」

 でもやっぱり答えられない。
 孝也が少し呆れたように晴香を見た。

「まさか、晴香。何も思い浮かばないとか?」

 ぎくり、と肩を震わせて晴香は孝也を見る。孝也が「やっぱりな」と言った。

「や、やっぱりとはなによ! やっぱりとは! いきなり聞かれてもすぐに答えられるわけないじゃない」

 孝也がくいっと眉を上げた。

「住みたい家の話はスラスラと言えるのに?」

「うっ…」

 痛いところを突かれて、晴香は言葉に詰まる。
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