契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也が微笑んで小さく頷いた。そして優しく問いかけた。

「相手の出身地は? 遠いところから来てる人でもいい?」

「それは…できれば地元の人がいいかな。私、結婚しても仕事を続けたいし。もちろん実家が遠くてもいいけど」

 なんにも思い浮かばないなんて言ったくせに、考えだすと意外といろいろあるなと晴香は思う。
 でも言うだけはただなんだからいいだろう。むしろまだ相手がいないフリーの状態の今だからこそ言えるのだ。

「相手の仕事や収入、家族構成は?」

「え? それは別に…。ちゃんと働いてくれればそれでいいかな。でも相手の家族とは私も仲良くなりたいな。子供ができたらみんなで旅行したりして…」

 孝也の質問に答えながら、晴香はなんだか結婚相談所のカウンセリングを受けているような気分になる。
 それと同時に、やっぱり彼は敏腕営業マンなのだと実感した。
 営業マンは聞き上手でなくてはならないと言っていたのは田所だったか。客の希望をすべて引き出してこそ、本当にその人にぴったり合った物件を紹介することができるのだ。
 孝也は、ついさっきは何も答えられなかった晴香の口から、あっというまにたくさんの言葉を引き出した。
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