契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「突然こんなこと言って、びっくりするのも無理はないけど。俺の方は少し前から考えてたんだ。俺と晴香ならうまくやっていけるんじゃないかなって」

 晴香は考えを巡らせる。
 結婚って…なんだっけ?
 一緒に生活をして、助けあって生きていく。子どもができたら、二人で愛情を注いで育てる。
 たしかに晴香と孝也ならなんの問題もないように思う。
 一時期は毎日のように家に来ていたから、一緒に住むのに違和感はない。
 実の弟である健太郎よりも話が合って、まだ違う会社だった頃はよく二人で飲みに行っていた。
 晴香の好きなマンションや間取りの話をいつまでも聞いてくれたっけ。逆に、珍しい物件の話を聞かせてくれたこともあった。
 結婚するなら趣味が合う人がいいなんて言うけれど、晴香のマニアックとしかいいようがない趣味を理解してくれる人なんてどこにもいないと諦めていた。
 でも孝也なら…。
 そこまで考えて、晴香はとっても重要なあることが欠けていると気がついた。
 確かに晴香と孝也は合いそうだ。でも二人の間には…。

「恋愛感情がないじゃない」

 晴香が呟くように言うと、孝也がクイッと眉を上げた。そして一瞬目を細めて、小さくため息をついた。

「…孝也?」

「でもさ、晴香。逆にいうとそれ以外は全て揃ってるんだ。…晴香だって、愛情があればなんでも乗り越えられる…なんて思っていないだろう?」

「それは…、そうだけど」

 店舗に来たカップルが、二人の未来図をうまく描けないことは、実はよくあることだった。
 家を建てるという作業は、膨大な労力と時間を必要とする。夫婦だって価値観に違いはあるだろう。でもそれをすり合わせることができなければ、乗り越えられない作業なのだ。
 契約の時は仲の良かった夫婦が、家が建つ頃は別れていたなんて話も聞いたことがあるくらいだ。

「男女の愛情がなければ結婚しちゃいけないなんて決まりはないよね。二人の間に、信頼関係があれば、それがたとえ…友情によるものであっても。なんの不都合もないんじゃない?」

 そうかな?と、晴香は自分に問いかける。
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