契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香はもしかしたら孝也も自分と同じなのかもしれないと思った。
 恋愛なんて、もうこりごり。
 もちろんそうなった原因は違うだろう。晴香と違って孝也はどんな相手でも選り取りみどりなのだから。経験だって、豊富そうだ。
 でもそういえば健太郎が言っていた。孝也の場合は、断ってもしつこくされて困ることが多いと。なるほど、あまりにモテすぎるのも困りものだということが。
 おそらくはその反動で、孝也の周りにいるおしゃれで明るい女性ではなく、ひたすら真面目な晴香を…。

『晴香は真面目すぎるんだよ。恋愛には向いてないんじゃない?』

 突然、晴香の脳裏に、三年前にかけられた呪いの言葉が浮かびあがる。
 晴香はびくりと肩を揺らした。

「晴香…?」

 孝也が不思議そうに首を傾げる。
 晴香は彼に問いかけた。

「孝也は真面目な私がいいのよね。私、結婚相手には向いてる?」

 孝也は瞬きをして、力強く頷いた。

「晴香ほどいい相手はいないと思う。大丈夫、うまくいくよ」

 晴香はほぅっと息を吐いた。
 恋愛はもう無理かもしれないと半ば諦めにも似た気持ちを抱きながら、幸せな家族を見るたびに胸が締め付けられるほどうらやましいく思っていた。
 思いがけない孝也の提案は、恋愛は嫌だけど結婚はしたいという晴香の無謀な希望を叶える千載一遇のチャンスかもしない。
 晴香はキュッと唇を噛んで、大きく一度深呼吸をした。
 そして、静かな眼差しで晴香の答えを待っている孝也に向かって口を開いた。

「よくわかったわ、孝也。孝也の言う通り、私、孝也と結婚する」

「…決まりだね」

 孝也が満足そうに微笑んだ。
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