契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そうなのかな?と晴香は思う。でも確かに結婚してから健太郎は、何か大事なことは『美紀と相談してから答えるよ』と言うようになった。それがあたりまえの夫婦の形なのかもしれない。
 でも…。

「でも私たちは…」

 背の高い孝也を晴香は見上げる。
 私たちは普通の夫婦じゃないじゃない?
 けれど続きを言う前に、孝也の指がそっと晴香の唇を押さえた。

「俺たちも一緒だ。なんでも相談して決めるんだ」

 そうなのか、と晴香は思う。同時に胸にじわりと温かい何かが広がった。
 最近では結婚したいと思いつつも心のどこかで、ひとりだけで生きていくんだと諦めていた。だからなんでもひとりで考えてひとりで決めるクセがついている。
 でも孝也と本当に結婚するならば、何かあれば彼に相談してもいいということなのか。
 孝也がもう一度問いかけた。

「一晩寝て、いろいろ不安になったんじゃない? 言ってみて、大丈夫だから」

 晴香は孝也をジッと見つめる。
 自分はいつも"お姉ちゃん"で、小さい頃はよく親たちに『弟ふたりをお願いね』なんて言われていた。
 だからその孝也に何かを相談するなんて考えもつかなかったことだけど、今目の前にいる彼には、相談しても大丈夫なようにも思えるから不思議だった。 
 晴香は少し考えてから昨日寝る前に考えた不安を、ひとつひとつあげてゆく。

「孝也は幼なじみだけど、会社の副社長でもあるから…その孝也と結婚したら会社が大騒ぎになるんじゃないかなっていうのと」

 孝也がゆっくりと頷いて続きを促した。

「おじさんと、おばさんはなんて言うかなっていうことが不安だった」
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