契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 ん?…子供?
 黙ったまま、晴香は目を剥く。
 結婚の話をしにきているのだから、あたりまえといえばあたりまえ。だが晴香にとっては予想外の言葉だった。

「あ、あの…」

 言いながら、思わずテーブルの下の孝也と繋いだままの手を引っ込めようとするけれど、ぎゅっと握られてしまい叶わなかった。

「うん、しばらくはあそこに住むよ。晴香は仕事を続けるから場所としては便利だし。でもまぁ、子供ができたらこの辺に家を建てようかと思ってるんだ」

 孝也が平然として、昨夜ふたりで話した架空の将来の話を口にする。
 晴香はその隣で真っ赤になってしまっていた。
 孝也は、家庭を持ちたいと言った。その言葉の中には子供のことも含まれるのだろう。
 晴香だってできることなら子供は欲しい。晴香の思い描く家族の光景はどちらかといえば、子供が中心だったのだから。
 でもそれには当然、そのためのあることが必要で…。
 
「ふふふ、ふたりに子供ができたら、可愛くて仕方がないでしょうね」

 頬杖をついてにっこり笑う孝也の母に、晴香は微妙な気持ちのままうつむいた。

「結婚式はこれから計画するよ。準備のためには一緒に住んでいる方がいいからさ。とにかく一刻も早く一緒になりたいんだ」

 にこやかに、そんなことを言う孝也の横顔を晴香は微妙な気持ちで見つめた。
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