ふたつの羽根
「聞かないの?」
「何が?」
陸はまったく何も聞いてこなかった。
その話すら持ち出そうとはしてこなかった。
「あの時…泣いてた理由」
「聞いたら言ってた?」
“何で?”
って返ってくると思っていたら、陸からの返事はまったく違う言葉で正直、少し驚いた。
きっと、あたしが言わないだろうと思って聞かなかったんだね。
陸の選択は当たってるよ。
「言わないよ」
苦笑いするあたしに「じゃあ言うなよ」と陸はフッと笑う。
「だね…。でも優しさに負けた」
「優しさ?」
「うん。なんて言うか、優しくされた経験とかないんだ。小さい時、親が離婚してママと2人っきりだった。ママはいつも忙しそうにしてて一緒に遊ぶって事もなかったし…」