ふたつの羽根
「陸に会いに来たの」
そう言った彩乃さんの笑顔は相当に恐ろしく感じた。
まるで空気さえも凍らすように…
“前みたいな関係”
その言葉が嫌なぐらい頭の中に流れ込み、込み上げてきそうな涙が喉に詰まり息苦しくなる。
彩乃さんはニコッと笑みを漏らした後、陸の前で背伸びをした。
陸の肩に彩乃さんの手が触れた時「お前、何してんだよ」と陸の口は動き、眉を寄せながら彩乃さんの手を払いのけた。
彩乃さんはため息をつき「何ってキス」と微笑んだ顔で陸を見上げた。
「あ?」
駄目…
もうここには居れない。
息苦しいよ。
「ロスではさぁキスなんて挨拶だよ。だから、あたしも挨拶しようと思ってね」
「ここはロスじゃねぇよ」
険しい顔の陸を見ながら彩乃さんは視線をずらし、あたしと拓真先輩に目を向けてきた。