お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~

夜桜と永遠

▼夜桜と永遠
 
 ふっくらと茹であがった小豆に、雪のように真っ白な砂糖をふんだんにまぶしていく。
 しばらくして、小豆からどんどん水が出て、ぐつぐつという音が聞こえてくる瞬間が、一番好きだ。
 小豆の甘い香りがあたりに漂って、湯気で顔が蒸されていく。ものすごく暑いけど、この優しい香りに包まれる時間はとても幸せだったりする。
 手で押し出すように鍋底から小豆を混ぜて、小豆を粗めに潰していくと、徐々に水分が蒸発して、へらにもったりとくっつくようになった。
 そうして出来上がったあんこをスプーンでひとすくいして、ぱくっと味見をしてみる。
「うん、美味しい」
 家の餡子作りをしっかり任せてもらえるようになったころ、季節は移り変わり、春になっていた。
 ――高臣さんと結婚してから、あっという間に五度目の春を迎えたのだ。
「凛子、その餡子の粗熱取り終えたら、こっち手伝ってくれ」
「了解、永亮」
「このあと、銀座のほうにはすぐ戻るんだよな? 商品さっさと積み上げようと思って」
「そうだね、助かる」
 永亮に指示され、私は重たい餡子を大きなバットに移していく。
 もくもくと湯気が立ち上り、私は再び熱い蒸気に包まれた。
 父の一番弟子から、一年間のトレーニングを経て、私は銀座店の店長として今働いている。
 早朝は神楽坂本店で和菓子作りの手伝いをして、できあがった商品を車で本店まで運んでいく。
 本店と同じクオリティーの商品を届ける……それが父のポリシーだということは十分に心の刻んでいるので、少しの鮮度も落とさないように毎朝できたてを陳列している。
 銀座店をオープンしてから数年経ったけれど、ありがたいことにお客さんは継続して来てくれている。
 フルーツ大福が若い層にも受けいれられ、うちのお客さんの年齢層はかなり幅広いものとなった。
 加えて、高臣さんが観光客向けに百貨店をリニューアルした経緯もあって、外国のお客さんも年々増えた。
 大好きな和菓子に毎日触れることができて、私は日々幸せを噛み締めている。
 何か高臣さんの会社にも貢献したいと思い、最近では、高臣さんの会社の社員である和菓子のバイヤーさんとも話し合って、和菓子フロア全体を盛り上げる施策を考えていたりもする。
 つまり、家業と二足の草鞋を履いている状態だ。
「永亮、始めようか」
「おう、練り切りから積んでいくか」
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