お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
第三章

愛しい気持ち

▼愛しい気持ち side高臣
 
 なかば強引に、凛子を自分のものにしてしまったことを、俺は一ミリも後悔していない。
 『もしかしたら愛されてるって、勘違いしちゃいそうになるから……』と、涙目で訴えてくる凛子を見たら、欲望を抑えられるわけがなかった。
 ぷつんと理性が頭の中で切れて、嫌われても泣かれても、凛子を今すぐに手にしたいと思ってしまった。
 ……昔からそうだ。手に入れたいものへの執着心は人一倍で、親も随分子育てで苦労したと、聞かされたことがある。
 幼いころはハマったゲームを徹底的にやりこんで分析したし、高校時代には物理の勉強にのめりこんで部屋から出て来なかった。
 とにかく好きになったものの"芯"に触れたくて、そうすると周りが見えなくなるのだ。
 社会人になると仕事にどっぷりと浸かり、自分の手で新しいことを生み出すことに夢中になった。
 恋愛なんて、している暇がなかった。
 そんなことに感情を動かしている自分すら、想像がつかなかった。
 日に日に仕事の量は増え、責任も重くなり、役職が上がっていくたびに、一緒に働いた仲間も環境もどんどん変化していく。
 でも、振り返らずに前に進むしかなかった。三津橋家の"跡取り"として。
 毎日喉元まで水に浸かっているような圧迫感で、呼吸をすることすら、忘れていたかもしれない。
 ――でも、そんな苦しいときは、高梨園の和菓子が自分の心を切り替えてくれた。
 幼少期からずっと変わりない、優しい味。
 一息つこうと思い高梨園の和菓子を食べるのではなく、高梨園の和菓子を食べることで、心が休まることができた。自分のすさんだ心を、優しく溶かしてくれるような味だった。
 そんな和菓子を作り続けている高梨園を、守りたいと思ったことは本気だった。
 お優しいボランティア精神ではない。完全に、高梨園が無くなったら困る"自分のため"の提案だった。
 でも、まさか、本気でその高梨園の娘を愛してしまうだなんて……不思議だ。
 
「凛子」
 今日が休日でよかったと、初めて心の底から思っている。
 愛しい凛子の寝顔を、ゆっくりと眺めることができたから。
 朝陽がカーテンの隙間から差して、凛子の透けるような白い頬を照らしている。
 手の甲で思わず頬を撫でると、凛子はゆっくりと目を開けた。
「あれ……、朝……」
「おはよう、凛子」
「高臣さん……?」
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