結婚から始めましょう。
「就職を意識するようになった頃、僕はグループとは何の関係もない会社に入ろうと模索した。でも、〝秋葉〟の名はあまりにも大きすぎて、どこへ行こうも背景は筒抜けだろうって、おじいさんに言われた。そこで、母の意思を継ぎたい思いもあって、カサブランカに入社したんだ」

初めて蓮と会った時、〝秋葉さん〟と呼ばれるのを嫌がった彼の真意はここにあったのだろう。

「母の立ち上げた会社は、今では大企業に成長した。でも、秋葉グループ全体から見たら小さなもの。僕がグループの他の会社でなく、カサブランカの社長に就任したことで、親族は一旦落ち着いた。
中には〝あんな結婚したやつらや、その子に、グループの主要な会社を任せられるわけがないんだ〟って、はっきり言う人もいた。けれど、僕自身は何の不満もなかったし、この会社が好きで守りたいと思ってたから、全く平気だった。むしろ、望んで働いていた」

陽子の意思を継げたことが、本当に嬉しかったのだろう。蓮はわずかに口角を上げた。

「ただ、おじいさんは僕達の境遇を、何とかしてやりたいと思っていたんだと思う。そこで提案されたのが、僕が身を固めたら、他会社の代表取締役を任せることだった。
最初、僕に持ち込まれた見合い相手は、僕の地位を固めるものなんかじゃなくて、おじいさんがその人柄を十分に見て、この人なら幸せになれそうだと判断した人ばかりだったんだ。けれど、親族が邪魔をして、それもうまくいかなかった。ついでに言えば、両親のような夫婦関係に憧れている僕としては、持ち込まれる見合いは受け入れ難かった。
そのせいもあったのか、〝自力で〟って条件がつけられたみたい。まあ、裏事情は僕に知らされてなかったけど」

苦笑しながらそう語る蓮は、いろいろと吹っ切れているのか、清々しくも見えた。
彼には、親族間のマウント取りのようないざこざなんて、きっと煩わしいものでしかなかったんだろうと想像できる。


ただ、ここからが真人が最も言いたかったことだと思うと、体にぐっと力が入った。
それに気付いた蓮は、手を優しくポンポンとしてくる。まるで「大丈夫だから」と言い聞かせるように。


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