触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜
「澪、お前態度に出すぎ。ミカさんが大変じゃん」



一席空けた隣。

私が来たときからカウンターに突っ伏していたお客さんが、起き上がって笑った。



「智哉さん?」

「こんばんはー」



ひらひらと手を振る。

既に相当飲んだのか、顔が赤い。



「うちの澪ちゃん、どう? ちゃんと優しくしてくれてる?」



保護者のような口ぶりで智哉さんが尋ねる。



「はい、いつも優しくしてもらってます」



私もだいぶ酔っているのか、向かい合って頭を下げる。

顔を上げると澪ちゃんが複雑な顔をして笑っていた。



「智哉さん、もうそろそろ帰られては? 相当飲んだでしょう。タクシー呼びましょうか?」



他のお客さんの手前、智哉さんに対しても物腰柔らかな態度を崩さない。



「えー、ダメ、帰りたくない」

「なにかあったんですか?」

「あー、今うちに妹来てて。今年受験でこっち受けるからって」

「へぇ、妹さんいるんですね」



意外だった。
勝手に一人っ子だと思っていた。


頼んでいたカクテルを飲みながら、智哉さんの話に耳を傾ける。



「年頃の男女をひとつの部屋に入れるとか、うちの親いかれてるよねぇ」

「兄妹だったらあるのでは? 私、兄弟いないけど」

「いや、血繋がってないから」

「……え」

「しかもさー、俺が卒業したら俺の部屋に住むから家具家電置いていけとか言ってんの。

俺そのまま引越し先で使うつもりだったのに!」



衝撃的なことを聞いた気がするのに、智哉さんは大したことじゃないとでもいうように、自分の部屋にある家具家電の心配をしている。



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