終わりから始まる恋
家に帰ると鍵が空いていた。
ああ、来てるのか。

「あ、おかえりなさい」
「ああ」
そう答えて部屋に入る。

「あの、これ」
そう言って差し出されたのは俺が渡した合鍵だった。

「は?何??」
「返す」
「は?なんで?」
奴は俯いたまま何も話さなかった。

「おいって」
俺は肩を掴んで少し揺すぶってみた。
それでも反応が無いので、顔を覗いてみた。
瞳から頬へ伝う涙を不覚にも綺麗だと思った。

「って、何泣いてやがるんだ?!」
花守はぽつりと話し出した。
「料理は、ダメだし、掃除もちゃ…んと出来なくて…迷惑ばっ…かで、も、別れる…し、か思…いつか無くて…ど、すれば…笑ってくれる?」
嗚咽を漏らしながら彼女は答えた。

ぶわっと今まで感じた事ない高揚感が胸を締める。気付いたら無意識に彼女を抱きしめてた。

「す、ぎた…?」
困惑した彼女の声を無視し腕に力を込める。

じゃ、今までの下手くそな料理も掃除も俺に笑って欲しくて。俺の為に苦手な事を?ああ、何で気付いてやらなかったんだ。ああ、可愛いいーーー。

「その、今まで悪かった。これからは花守のことを知ろうと努力する。だから鍵は持ったままでいてくれ」
「はい」
彼女はそう答えると静かに微笑んだ。

あ、初めてみる表情。そんな風に柔らかく笑うんだな。

緊張が解けた彼女はそのまま眠りの世界に入っていった。
彼女にバレないようにそっと髪を撫でる。

ああ、俺ってこんなに愛されていたんだな。
ちゃんと向き合っていれば…泣かせることも無かったのか。
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