【短】あの夏を忘れない
こんな、運命から…逃れられる日が果たしてくるのだろうか。
自分の捩れた愛から、這い出ることは出来るのだろうか。
私は軋むベッドの音を耳にしながら、泣きそうになるのを無理やり押し込んで、彼の体にしがみつく。
首筋に、背中に、私という痕跡を残さぬように。
けして、越えてはいけない境界線。
彼の全てを壊したい衝動と、彼の幸せを願う捩れた心。
私は、彼と逢う度に素直に笑えなくなっていった。
ただの、お酒の場の出逢いから。
こんな爛れた世界が生まれるなんて信じたくなかったから。
「愛海…?」
「何…?叶海さん」
「お前……いや、なんでもない」
彼も、私の変化に気付いているようだった。
そう、これは真夏の夜の夢に浮かされた、たった一瞬の…恋愛。
だったら、もう…手放してしまえ。
完全に後戻りが出来なくなる前に。
彼の元から離れられなくなる前に。
欲望を曝け出して壊れてしまう前に…。